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7/29の談志DNA落語会をこっそりと歴史に残しておきます

立川談志の元直門の二つ目3人が集結する「談志DNA落語会」は平日の夜にこっそり行われたのであった。
 いや、別に開催を秘密にしていたわけではないのだけど。

 現・立川龍志門下、泉水亭錦魚。現・立川談慶門下、立川平林。現・立川左談次門下、立川談吉。
 現在は元の兄弟子の門下に入って活動を続けている3人だが、元は談志直門である。落語界のルールとして、師匠につかずに存在できるのは真打以上の身分だけであり、二つ目以下はどこかの門下に入らなければ存在を認められないのである。立川談志に惚れてこの世界に入ったのだから、最後までその弟子でありたいという気持ちはそれぞれにあっただろうと思う。しかし、今はそれぞれの門下で第二の落語家人生を送っている。その3人に集まり、元談志直門の気概というものを見せてもらいたかった。
 特に談吉は、二つ目昇進を果たしたのが談志の死後である(生前に談志から許可を貰っていた)。死後最初の独演会で、高座を勤めた後、「俺は談志の弟子だ」と吠えたという。その思いを今も持ち続けているのか否か。

 平林は、談志がかなりの高齢になってからの入門で、途中まで「談志最後の弟子」と自認していた。談吉の入門によってその肩書きを譲り渡したのだが、くびきから解かれたことで思いはどのように変わったのか。それとも変わらなかったのか。

 錦魚は三人の中で最も入門が古く、あの歴史的事件にも遭遇している。当時の前座が全員「二つ目昇進の意志が見られない」という理由で破門を言い渡されたという2002年の「前座全員破門事件」だ(そのままだ)。このとき錦魚も破門を言い渡されたのだが、もっとも入門歴が浅かったため、談志からすぐに許されて復帰が叶った。しかし一旦破門にしたものをそのまま戻すのは都合が悪いということで、談志ではなく立川流一門の弟子ということで当時の前座名である談吉から談一に改名しての復帰になった(したがって直門の義務である上納金も免除されていた)。この中途半端な身分はしばらく続いたので、錦魚は自分が談志の弟子に正式復帰したのがいつか定かにわかっていないという。立川流の中でも特異な立ち位置を強いられていたことが、その後の芸に影響したのかしなかったのか。

 と、まあ、そんなことを私自身が知りたくてこの落語会を計画したのでありました。

 当日の演目は、各人に無理を言い「談志ゆかりの落語」を手がけてもらうことにした。
 以下の通りである。

 談吉 粗忽長屋
 平林 権助提灯

 仲入り

 錦魚 お化け長屋

 談吉は「今日は楽屋が頭の上がらない兄さんばかりで窮屈で仕方ない」とぼやきながら高座にやってきた。「粗忽長屋」は全盛期の談志が「主観長屋」と概念を変えて演じていた落語で、粗忽、うっかりではなくて思い込みの激しい男の話に改作した。人だかりのするところに八五郎がやってくると行き倒れ(死人)がいる。顔を見ると長屋の隣人で親友の熊五郎だ。もっとも熊とは朝に会ったばかりで、昨夜のうちからそこに倒れていた死人が彼であるわけはない。勘違いだと諭されるのだが、思い込みの激しい八五郎はとにかく本人を連れてきて死骸を引き取らせるから、と言い張って長屋に熊五郎を呼びに行ってしまうのである(ここで談吉は、談志お気に入りのフレーズだった『状況判断ができない者をバカという』を引用してみせた)。

 このあと長屋に帰った八五郎は、死んでいる気がしないと渋る熊を「お前は死んでいるんだ。死んだんだから自分の死骸を引き取らないといけないんだ」と説得する。同じ思い込みが激しい二人でも、八五郎は押しが強く、熊五郎は人がいい、という対比ゆえに起きる喜劇なのである。談吉は二人が親友だという点を強調してみせた。八五郎は「おめえといつまでも一緒に長生きしたかった」と泣き、熊五郎も「悪かったなあ、先に逝っちまって」と泣くのである。ここでほろりとするような感情の励起があった。「粗忽長屋」はほろりとさせることもできるというのは発見で、いい収穫となったのである。

 その談吉の後を受けて上がったのが平林である。平林は2011年以来安来節を踊ることにも熱心なのだが、その話題を枕に振って客を十分に笑わせた。病床の談志を見舞い、目の前で踊ってみせたというエピソード、安来節の全国大会に出て二年連続で決勝まで出たが苦杯を舐めたという話、いずれも「たっぷり」だったのだが、なぜかというと「談吉が十分早く降りてきてしまったからだ」との種明かしがあった。弟弟子をいじり、楽屋に向けて「ごめんね。ネタだからね」と詫びてみせる一幕もあって自由闊達である。

 自由闊達といえば本筋に入って話を始めたときに、「あ、一つ仕込みを忘れた」と後ろに戻って演じなおし、旦那の台詞で「頭の中で修正してうまくつなげてくれ」と言って笑わせた。このへんは噺の中で突如素に戻ることもあった談志の芸風を彷彿とさせる。ネタの「権助提灯」は、新しく妾を持った旦那の話である。本妻、妾いずれも相手を立てる。見かけ上は円満に収まっている関係なのだが、当然だが水面下で闘いは続いている。それが思わぬ形で顕在化してしまうという展開なのである。ある晩、旦那は本妻から「こんな日はあのこは一人ですから心細いでしょう、向こうに泊まってやってくださいな」と言われ、妾宅へ赴く。しかし妾は、それが本妻の差し金だと知って態度を硬化させ、お気持ちは嬉しいがそれでは女が立たない、と旦那を帰そうとするのである。お互い意地になって旦那を向こうに泊まらせようとする。旦那は気の毒に、家が二つもあるのにどちらに上がることもできずに行ったり来たりさせられる。談志はここを映画的なカット割りで演じてみせた。きりきり舞いさせられる旦那のさまが笑いを誘うのである。平林は談志演出を受け継いでテンポよく話した。

 最後の錦魚は、「この三人が揃うのは史上初のことで、今楽屋でも二回目をやろう、ということに相談がまとまりました……来世で」といきなり切り出した。枕の話題は次の談志は誰が継ぐかという話題に。三人候補がいるのだという。一人は惣領弟子である土橋亭里う馬、もう一人は最大の売れっ子である立川志の輔。そして三人目は最年少の談吉だ。おそらくは最後まで生き残るのは談吉だろうから、そのときに継ぐ可能性があるだろうという。
「もし私が生きていたら……全力で反対しますけど」
 と言って客を笑わせ、すっと「お化け長屋」に入った。

 長屋にみんなが物置のようにして使っている空き店がある。そこを借り手がつかないように、と相談がまとまり、誰が来ても追い返すから、と悪い役目を古狸とあだなされる杢兵衛が請け負うのである。杢兵衛は、昔その空き店で強盗殺人があったという話をでっちあげる。幽霊が出るから借り手がつかない、というのだが、豪胆な男がやってきてしまう。怖がらせようとする杢兵衛の演出をことごとくすかし、話にためをつけようとすると「てきぱきやれ」と茶々を入れる。この男にへこまされる、というところで「お化け長屋」の上は幕引きである。

 三席のあと、三人による鼎談会を行った。その模様は当日いらっしゃった方だけのお楽しみということで、非公開である。観客は、文字通り歴史の目撃者になっていただいたのであった。

 以降も立川流二つ目落語会は開催予定である。詳細は追って発表するので、ぜひご注目のほどを。

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 落語会の告知を一つ。
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2014DanshirouAllNight4&5